「ここトルツメで」と言われて、手が止まったことはありませんか?
制作の現場では、赤字(校正で入れる修正の指示のこと)も口頭の指示も独特の言葉で飛んできます。テレコ・ママ・トルツメあたりが代表です。意味を知らないと、直す前に「それ何ですか」で止まってしまいます。
この用語は難しくありません。数も多くないので、一度覚えれば一生使えます。
ここでは校正の赤字で出る言葉、校正が何往復するのかという流れ、入稿まわりの言葉を順に説明します。入稿は、印刷所へ完成データを渡すことです。読み終わったら、赤字が入ったPDFを見ても迷わなくなりますよ◎
校正の赤字は3つのグループで覚える
校正用語を1つずつバラバラに暗記すると、似た言葉で混乱します。「消す」「触らない」「入れ替える」の3グループに分けると、一気に整理できます。
| グループ | 用語 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 消す | トル/トリ、トルツメ | 要素を削除する |
| 触らない・戻す | ママ、イキ | 原稿のまま、または赤字を取り消す |
| 入れ替える | テレコ | 順番が逆になっている |
赤字を受け取ったら、まずどのグループの話か見分けます。それだけで、ほとんどの指示は読めます。
ちなみに校正の記号はJIS(日本産業規格)で決まっていて、印刷会社も出版社も同じ書き方で赤字を入れます。会社ごとに違う言葉を覚え直す心配は要りません。

消す指示:トル/トリ・トルツメ
トル(トリ)は「削除して」という指示です。消したい文字を線で消して、余白に「トル」と書きます。丸で囲んであるのは、そこが指示であって本文ではない印です。
トルツメは、削除したあと空いた分を詰めるところまで含みます。「!」を1文字トルツメすれば、後ろの文字が1文字ぶん前に来ます。
対になる言葉がトルアキです。削除はするけれど、空いたところはそのまま空けておく指示です。ロゴまわりの余白を守りたいときなどに出ます。
- トル:消す(詰めるかどうかは書いていない)
- トルツメ:消して詰める
- トルアキ:消すが空きは残す

「トル」だけの赤字が来たら、詰めるかどうかを確認してください。文章なら詰めるのが普通ですが、レイアウトの要素だと詰めると全体が動きます。ここは勝手に決めないほうが安全です。
触らない指示:ママ・イキ
この2つは新人がいちばん混ぜやすいところです。どちらも「直さない」ですが、直さない理由が違います。
ママは「原稿のとおりにして」という意味です。誤字に見えるけれど正しい固有名詞、わざと崩した表記のときに使います。「原文ママ」という書き方も同じです。校正する側が「気づいたうえで直さない」と伝える言葉なんですね。
イキは「さっきの赤字を取り消して、元を生かして」という意味です。一度「トル」と入れたあとで気が変わったときに、赤字の上に「イキ」と書きます。
- ママ:原稿が正。最初から直さない
- イキ:入れた赤字をなかったことにする。元に戻す
入れ替える指示:テレコ
テレコは「入れ違いになっている」「入れ替えて」という意味です。もともとは芝居の言葉で、今は制作でも印刷でも広く使います。
テレコが出る場面は、だいたい決まっています。
- 2枚組のバナーで、AパターンとBパターンの画像が逆
- 担当者名と会社名の並びが逆
- 日付と時間の順序が原稿と逆
- ファイル名の連番と中身がずれている
「テレコになってます」と言われたら、片方だけ直して終わりにしないでくださいね。入れ違いなので、直す対象はいつも2つあります。片方だけ直すと、同じものが2つ並びます。
校正は何往復するのか
用語と同じくらい大事なのが、校正の流れです。校正紙のやり取りには回数ごとの呼び名があって、メールではこの呼び名だけで話が進みます。
| 呼び名 | 意味 |
|---|---|
| 初校 | 最初に出す校正紙。赤字がいちばん多く入る |
| 再校 | 赤字を直して2回目に出す校正紙。三校、四校と続くこともある |
| 校了 | 直しがなくなり、「これで刷ってよい」と確定した状態 |
| 責了 | 責任校了の略。残った小さな直しを印刷所に任せて校了にすること |
| 下版 | 校了したデータを印刷の工程に回すこと |
基本の流れは初校 → 再校 → 校了(または責了)→ 下版です。「再校で校了にしたい」と言われたら、次の戻しで直しをゼロにしたい、という意味です。
文字の直しとは別に、色を確かめる色校正という工程もあります。本番と同じ印刷機と紙で刷って確かめるのが本機校正、プリンタ出力などで色の傾向だけを見るのが簡易校正です。色を厳密に合わせたい仕事では本機校正を選びます。
入稿データで言われる言葉
入稿のデータを作る段階では、この4つがよく出ます。印刷所の入稿ガイドにも必ず書いてある言葉です。
- トンボ:仕上がりサイズに断裁する位置を示す目印。データの四隅と辺の中央に付けます
- 塗り足し:断裁のわずかなズレに備えて、絵柄を仕上がりの外側へ3mm伸ばしておく部分
- 裁ち落とし:紙のふちまで絵柄がある仕上がりのこと。塗り足しがないと、ふちに白い線が出ます
- アウトライン化:文字を図形のデータに変換すること。相手の環境に同じフォントがなくても、字形が変わらなくなります
4つとも、断裁とフォントのずれに備えるための言葉です。
打ち合わせの会話で出る言葉
赤字には出ないけれど、会話で当たり前のように出る言葉もあります。ここも先に知っておくと、初日から話が通じます。
注意書き/約款
広告の下のほうに入っている、小さい文字のかたまりです。キャンペーンの条件、対象外の但し書き、料金の内訳などが入ります。約款と呼ぶこともあります。
やっかいなのは、この文字量が制作の途中で増えることです。法務の確認が終わると、2行のつもりが6行になったりします。先に場所を広めに取っておくと、あとから主役の絵柄を縮める事態を避けられます。
ガショリ/ガショる
画像が粗い状態を指します。「この写真ガショってる」と言われたら、拡大しすぎてピクセルが目立っている、という指摘です。ガショリと名詞で言う人もいます。
原因はほぼ1つで、元の画像が小さいのに大きく使っていることです。直し方は、元データを大きいサイズでもらい直すこと。引き伸ばした画像は、あとから加工しても戻りません。
ワイプ・ジャック・コピペ
ワイプは、人物を小さく丸く抜いて隅に重ねる表現です。テレビ画面の隅の小窓から来た言葉で、「ここにワイプで顔入れて」のように使います。
ジャックは、広告の枠をまとめて押さえることです。駅の壁一面なら駅ジャック。1枚で強い絵より、並べたとき1つの塊に見える設計にします。
コピペはコピー&ペーストの略です。前の案件のテキストを流用して、社名や日付が前のまま残る事故を「コピペミス」と呼びます。
ミニ実践:ふつうの指示を現場用語に書き換える
覚えたかどうかは、自分で言い換えてみると分かります。次の5つを、現場用語1語で言い換えてみてください。紙もツールも要りません。
- 「この『!』を消して、後ろの文字を前に詰めてください」
- 「会社名と担当者名の並びが逆です」
- 「誤字に見えますが原稿どおりです。直さないでください」
- 「さっき消してと言いましたが、やっぱり残してください」
- 「この飾りは消して、空いたところはそのまま空けておいてください」
答え合わせです。
- トルツメ
- テレコ
- ママ
- イキ
- トルアキ
5問とも即答できたら、赤字は読めます。詰まったところだけ、上に戻って読み直してくださいね。
用語の早見表
このページで出た言葉をまとめます。作業中に迷ったら、ここだけ見返してください。
| 用語 | 意味 | 出る場面 |
|---|---|---|
| トル/トリ | 削除する | 赤字 |
| トルツメ | 削除して空いた分を詰める | 赤字 |
| トルアキ | 削除するが空きは残す | 赤字 |
| ママ | 原稿のままにする | 赤字 |
| イキ | 入れた赤字を取り消して元に戻す | 赤字 |
| テレコ | 2つが入れ違いになっている | 赤字・会話 |
| 初校・再校 | 1回目・2回目に出す校正紙 | 校正の流れ |
| 校了・責了 | 直し終わり。責了は残りを印刷所に任せる | 校正の流れ |
| 下版 | 校了したデータを印刷の工程に回す | 校正の流れ |
| 色校正 | 刷る前に色を確かめる工程。本機校正と簡易校正がある | 校正の流れ |
| トンボ | 断裁位置を示す目印 | 入稿 |
| 塗り足し | 仕上がりの外側へ3mm伸ばす絵柄 | 入稿 |
| 裁ち落とし | 紙のふちまで絵柄がある仕上がり | 入稿 |
| アウトライン化 | 文字を図形のデータに変換する | 入稿 |
| 注意書き/約款 | 広告の下に入る小さい説明文 | 入稿 |
| ガショリ/ガショる | 画像が粗い状態 | 会話 |
| ワイプ | 隅に小さく重ねる別画面 | 会話 |
| ジャック | 広告枠をまとめて押さえる | 会話 |
| コピペ | コピー&ペースト。流用の事故名としても使う | 会話 |
よくある質問
次に学ぶこと
今回のまとめです。
- 赤字は「消す・触らない・入れ替える」の3グループで覚える
- トルツメは詰めるまで、トルアキは空きを残す
- ママは原稿が正、イキは赤字の取り消し
- テレコは入れ違い。直す対象はいつも2つ
- 流れは初校→再校→校了・責了→下版。色は色校正で確かめる
- 流用データは固有名詞・日付・金額を最初に確認する
用語が分かると、赤字を受け取ってから直し終わるまでが短くなります。あとは実際の流れの中で使うだけです。
次は制作の流れ(ラフ→カンプ→フィックス)を読んでみてください。赤字がどの工程で入るのかが分かると、今回の言葉が実際の場面と結びつきます。
ガショリの話が気になった方は解像度とピクセルへ。粗くなる仕組みを数字で説明しています。
全体の並びはデザイン基礎コースの目次から確認できます。
